徳島地方裁判所 昭和25年(行モ)1号 決定
申請人 清水清
被申請人 徳島県知事
一、主 文
本件申請を却下する。
申請費用は申請人の負担とする。
二、申請の趣旨
被申請人の別紙目録記載の地上物件收去に関する代執行処分はこれを停止する。申請費用は被申請人の負担とする。
三、事実及理由
申請代理人はその理由として「別紙目録記載の山林は申請人の所有であるところ沢谷村農地委員会はこれを未墾地買收計画に組入れ、又徳島縣農地委員会は申請人の右買收計画取消の訴願を棄却したので申請人は右両委員会を相手方として当廳に対しその取消訴訟を提起し昭和二十四年(行)第一四号事件として繋属中であるが、元來右山林は沢谷村農地委員会及び徳島縣農地委員会が未墾地買收計画をしたもの(当廳昭和二十三年(行)第四四号、同二十四年(行)第四号、同第五号事件)の一部であつて、その計画の違法なことは右各事件の訴状等により明かであり当然取消さるべきものであるが、被申請人は今般第一次的に申請人外数名に対し昭和二十五年三月二十日立木数千石につき行政代執行の処分を爲し、又前記各本案訴訟の原告のほとんどに対し代執行の前提である戒告書を発し第二次、第三次の代執行を計画中であるが、申請人が被申請人の爲す右処分により被る損害は次の理由によつて償うことのできないものである。すなわち本件立木の樹齢はいずれも別紙目録の通りであり、その間申請人は植付手入等に多額の経費を使い、これから自然に生長しそれが山林経営者である申請人の收益になるのであつて、今これを伐採するときは薪材位にしか使用できないのに反し、被申請人が本件処分を本案訴訟後に遅延することによつて受ける損害は僅少であつて、その間利害の較量が爲されねばならないのであり、尚最近造林については国庫補助金四割縣費補助金一割を支給してその奬励をしている実情である。次に本件山林は那賀川の上流に位しその水源地帶であり、地上には古來樹木が繁茂しその根がよく地中に繁植して自然土石の柵となり雨水の地中に滲透する度合を調節するため三十度ないし五十度の傾斜地であるにもかゝわらず地層は完全に維持されて來たのであるが、今被申請人の計画通り地上立木を伐採し開墾のためその根を堀り取るに至れば傾斜度の関係上表土は雨水とゝもに漸次低きに流れるのは勿論、梅雨期に際会すれば地すべりとなり結局崩壞に至ることは実驗則上明らかである。右のような次第であつて被申請人の処分によつて被る損害は申請人のみでなく公共の福祉に関係する程大であるから、これの停止を求めるため本申請に及んだ次第である。」というにあり、被申請人は右に対し「本件申請を却下する。」との意見を提出しその理由として「本件土地は沢谷村農地委員会樹立の未墾地買收計画第一三号により昭和二十四年三月二日を買收の時期として右計画は確定したのであつて、沢谷村開拓計画は昭和二十四年一月より実施し、農林省の開拓計画の認可を得て五年計画により村の再建を企図して実施中であり、これに伴う建設工事も進捗中であるが、ひとり買收地の立木の收去についてあらゆる手段を盡し、すでに計画二年度においても收去未完了であつて、開墾作業は進捗せず、入植者は徒らに不安の念に駆られ、このまゝ推移すれば開拓計画遂行上に一大支障を來すものと認められるので、沢谷村農地委員会より再三收去を申請人等各所有者に勧告するとゝもに開拓事業に協力を懇請したが應じないので昭年二十四年九月二十二日自作農創設特別措置法第三十三條の規定により收去命令を発するとゝもに不採算林については政府に対し買收申請の途あることを通告したが、申請人等より何等の意思表示なく、期限に至るも收去しないので昭和二十四年十二月二十八日附をもつて戒告書を発し受領の日より三十日以内に收去しないときは代執行を爲す旨通告し、昭和二十五年三月十六日附代執行令書を送達したのである。申請理由中本件土地を開墾することが治山治水に惡影響ありとの点は、本件代執行地域が買收地の一部であり、事情止むを得ず緊急の面積に限定したので申請人の主張のような虞はなく、又植林を失うことによつて生ずる損害は金銭賠償と相容れるものである。」というにある。
よつて判断するに本件行政代執行処分が被申請人の企図する未墾地開発計画の一環として爲されたことはその意見に徴して明かであり、当該計画が現下の国情に照らし喫緊事であることは言うをまたないところであつて、本件処分を停止することは公共の福祉に重大な影響を及ぼす虞あるものであるから、行政事件訴訟特例法第十條第二項但書、民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り決定する。
(裁判官 今谷健一 赤塔政夫 三木光一)
(目録省略)